作品

住み手の感想

ちいさな二世帯住宅

  • 2008年 東京都府中市
  • 文:施主 Yさん
  • 敷地面積:
  • 延床面積:

たった32坪に2世帯住宅が建つのだろうか。狭小にならざるを得ないその空間に2つの世帯が争うことなく快適に生活することができるだろうか。 私たちの家づくりはそういった漠然とした不安から始まった。

たくさんのモデルルームを見てイメージをふくらませたものの、どのハウスメーカーも2世帯住宅への想定は私たちが用意できる敷地に対しては大きすぎる。やっと出てきた大手ハウスメーカーからのプランは小さいキッチンを2つ備えただけのものだった。

「狭いから仕方ないね」「素敵なモデルルームはどれも広いからね」半ば諦めかけていた私たちはたまたま雑誌で狭小の2世帯住宅という特集を発見した。 これが石川さんの家との出会いだった。

石川さんが提案してくれた家はそれまでのハウスメーカーのプランとは全く違ったものだった。高い天井、スペースにリズムを創り出す意図的な段差。家の中央に設けられたにじり窓。 「真四角に均等に部屋を配置することが一番合理的に土地を使えるのですよ」そういったハウスメーカーとは全く正反対のアプローチだった。私たちはほとんど契約寸前だったハウスメーカーを切り捨てて、石川さんのプランに賭けてみることにした。 とはいうものの不安はあった。たとえば、南側のみに極端に集中した窓。本当に明るくなるのだろうか。 その狭さから、結局、玄関・洗面所・風呂は共有にせざるを得なかった。2つの世帯の導線はぶつかることなく居られるのだろうか。ほとんど隣り合わせの日常に年老いた両親世帯と夜遅い若い世帯の2つの生活が両立できるのだろうか。

 最初の構想から数えると2年を要した家づくりは建ち始めると早かった。出来上がった白い『OUCHI』は期待以上のものだった。 時間の経過とともに表情を変える陽の光は十分すぎるほど明るいものだったし、各所に設けられた段差が一つ一つの部屋に違った性格、違った気分を与えた。 大変天井の高い両親世帯のリビングはモダンな中に“和”を感じさせるものだったし、負けじとこれも天井の高い私たちのリビングは斜めにのびた壁が宇宙船の中のような非日常を醸し出す異空間だった。 寝室はたった6段の段差の先にもかかわらず、まぎれもなく寝室であったし、その上空に浮かぶロフトはさらに違った雰囲気の書斎になった。 そして何より、2つの別々の生活をひとつの家族として成立させている。

見ようとしなければ見えないが、「何をしているのかな」と感じたときに覗けば、そこに大切な家族がいる。そんな空間を創りだしてくれた石川さんに心から感謝したいと思う。

「同居する」と言って、10人の友達・上司に相談し、全員に反対されたこの生活は、こうして今のところ大変順調なのである。
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「OUCHI-01」をご覧ください。

株式会社石川淳建築設計事務所 東京都中野区江原町2-31-13第1喜光マンション TEL 03-3950-0351