コラム

スイス建築旅行 その2

更新日:2016年8月16日

ビトラ022016年8月26日追記

2010年に行ったスイスを廻る建築見学旅行 その2です。
写真はスイスのバーゼル近郊のドイツのヴュルテンブルク州ヴァイル・アム・ラインにある「ヴィトラ社」の家具工場に完成したその名も「ヴィトラハウス」設計はヘルツォーク&ド・ムーロンの両氏。家型を積み上げたデザインの建築は日本でも現在ちらほら散見しますが、こちらがオリジナルだと思います。みなさんこの建築を見て影響を受けています。

バーゼル駅からトラムでBasel Claraplatzまで移動して、そこの55番のバスにてヴィトラ前のバス亭まで20分ほど。ドイツ行きなので料金はスイスフランではなくてユーロで支払う必要がありますが、わからずにフランで払ってしまいました。バスの運転手の女性に「まあ観光客だから多めに見るわ」と言われたと思います(もちろん何言ってるか通じませんのであくまで雰囲気・・・)近づくにつれて、どーんとこのヴィトラハウスが見えますのでわかりやすいです。

工場の門の外にあり、家具のショールームとレストラン、工場見学ツアーの受付などがあります。

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右下がレストランで、左の木製の壁はうねって「ベンチ」になっていて座れます。道が向かう真ん中が工場見学の受付やショールームエントランスへ向かう動線。

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各ボリュームの妻面がガラスの面となっていてショールームの中が見えるようになっています。木貼りの壁の下の方がベンチになっているところ。

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家型ボリュームに囲まれた中央部です。ここに面してショールーム入り口やアンテナショップ入り口、レストラン入り口などが面しています。「外」なのにペンダント照明が下がっているところがおもしろい演出です。

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気になるディテールです。
屋根材のアスファルトシングル風の仕上げで屋根も壁も仕上げてあり、トイは有りませんが、水が切れるように端部はすこし跳ね出していますね。
さらに、上面には雪止めのアングルも見えます。案外無理をしていないあたりが好印象。

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各家型のボリュームが噛みあわさって、内部空間をつないでいます。

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こちらがアンテナショップで、見学ツアーの申込みも中で受け付けています。

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こちらが購入したツアーのパスカードです。

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さすが素敵なデザイン

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カードの台紙を広げると館内案内図になっています。

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右下の1番が「ヴィトラハウス」です。

2番 工場 SANAA,2010
3番 バス亭 Jasper Morrison,2006
4番 工場  Alvaro Siza,1994
5番 消防署 Zaha Hadid,1993
6番 ホール Tadao Ando,1993
7番 美術館 Frank Gahry,1989
8番 工場  Frank Gahry,1989
9番 ゲート Frank Gahry,1989
10番 工場  Nicholas Grimshaw,1981
11番 工場  Nicholas Grimshaw,1986
12番 彫刻  Clase Oldenburg&Coosje vzn Bruggen,1984
13番 フラードーム Fuller,1978/2000
14番 東屋 Jean Prouve,1953/2003
で、見学出来たのは1番・13番・14番・5番・12番・6番・3番でした。7番のゲーリーの美術館は改装中で入れず。
1番のヴィトラハウス内部は撮影禁止なので、外廻りとレストランでの風景のみ撮ってきました。

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案内13番のフラードームです。
鎌倉近代美術館でフラー展をやっていた時に写真は見ましたが現物は初めて。

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室内ではツアーガイドの女性が説明してくださいますが、「英語が少々苦手なのでドイツ語ですみません」的なお話し。
よく分かりませんが、とにかくみなさんの後を追って着いていきます。

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中は音の反射が強くて、結構いごこちが悪いです。意外でした。
中心に立たずに、すこし外れた位置に立てば反射音が和らぎます。
入って見ないとわからないところが建築の醍醐味。

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こちらはリーフレット14番のJean Prouve設計のPatrol stationです。中には入れず外から解説をドイツ語でお聞きしました。

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反対側へ目を向けると8番のゲーリー設計の工場棟です。手前の車は三菱のハッチバック・・・

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「狂気」! 

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さて、こちらは4番のシザ設計の工場、跳ね上げ式の廊下の屋根が見えます。屋根の左側の建物は11番のNicholas Grimshaw設計の工場

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基壇のデザインは発表当時に大いに参考にしました。レンガとH型鋼の間の目地がオープンジョイントで中が透けて見えました。
日本だと必ずシール打ちしてしまいますが、欧州ではシール打ちされた外壁はあまり見かけません。もちろん中で止水されているのでしょうが、オープンの方が陰影が出て見た目が綺麗です。

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工場の開口部分。上部の庇は写真では最も高い位置に止まっていますが、開口の上の汚れのあたりに下げているときも多いのでしょう。
設計通り、動かして使っているようでした。

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先日亡くなったザハ・ハディド氏の処女作 ファイヤーステーション(消防署)です。
国立競技場問題で翻弄された末の65歳の早すぎる死でした。

そもそも、ビトラ社の工場は火災に遭って焼失しました。その各棟の建て替えを著名建築家にデザインしてもらおうという事が現在に至る始まりです。
そして、この消防署は近隣に公共の消防署が無かったために工場敷地内に専用消防署をつくったそうです。

現在は近くに公共の消防署が開所したためにザハの消防署は用途をレセプションホールに変更されています。

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発表された時に雑誌には単純に「消防署」と記載があったので、初めて見た時は「ドイツはすごい消防署つくるなあ」とただ感心しましたが、企業の専用消防署だったわけです。数年後に知りました。
それにしても庇のスラヴが薄いこと・・・

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5連層の引き戸が消防車の発進口です。

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こちらは裏手。

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ザハのネームが記載されています。1993年、まさか2016年で他界するとは・・

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消防車を停車していた車庫内です。
レセプションホールとして使われています。

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2階の消防士の詰め所だったところ。
天井や壁、窓外のルーバーなどは水平ではなく、斜めに傾いています。

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トイレも斜めっています。
「消防士達が平衡感覚を無くしてしまい活動に支障が出た」という都市伝説を聞いたことがあります

敷地入り口左のゲーリーの美術館ヘ移動です。見学ツアーは通常ここも見られるようですが、この日はあいにく改装工事中で入れません。

ビトラ31たしか1990年あたりのGAドキュメントかゲーリーの作品集に出ていて、20代の私も「現物が見たい!」と心躍らせたものです。神戸のフィッシュダンスは現地を見たことがあるのですが、ゲーリーの現物を拝見するのはこの時が2番目だったと思います。

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この彫刻とのツーショットを当時のGAの写真で見ました。

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残念ながら次の展示に向けて準備中です。

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ということで安藤忠雄棟です。ガイドのお嬢さんが打放シのパネル割が日本では910×1820で・・・と言う感じの説明をドイツ語でしていました。

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こちらはレセプションホールで、中ではなにかパーティーをやっていてサンクンガーデンを上から見ることは可能でした。

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Pコンはモルタル詰めではなくて、既成品みたいな物があるようです。ということでツアーは安藤棟で終了です。

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と言うことで、ヴィトラ社の工場見学が終わり、バーゼルへ帰るバスへ。
バス亭もJasper Morrison氏の設計とパスカードにありました。

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バス亭の時刻表です。このあとは一端バーゼルの中心に戻って、レンゾ・ピアノ氏設計のバイエラー財団美術館へ向かいます。

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おおよその地図です。バーゼル駅から少々北上したところにバイエラー財団美術館があります。(地図にはティンゲリー美術館も記載)

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アプローチです。パーキングに大型バスが何台も止まっていて、年配の観光客が団体で見に押し寄せていました。箱根の美術館みたいです

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かつてGAか何かで見た美しい庇です。
残念ながら内部は撮影禁止です。

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バーゼルの市街地には2001年にプリツカー賞を受賞の建築家集団ヘルツォーク&ド・ムーロンの設計した中小ビルが多く、これを見るのもバーゼルに来た目的です。2000年当時に世界で最も注目されていた建築家ユニットでしょう。日本の建築家も大変ヘルツォーク建築に影響を受けました。この緑色のビルも設計はやはりヘルツォーク&ド・ムーロンで州立病院ロセッティ医薬研究所です。

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緑のドットがプリントされたガラスの表面は飾りのようですが、オープンジョイントのため中の空間は隙間で外とつながっています。間のメンテナンスはどうするの?と日本なら間違い無く言われます。
シュピタル通りとシャンツエン通りの交差点近くです。欧州の現代建築群は意外にも中は普通で、表層をどう表現するか、という点に力がはいている物が多いです。

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続いて同じくヘルツォーク&ド・ムーロンの設計したシュビッター集合住宅&オフィス。アルシュヴィラー通りにあります。
トラムのAllsch eilerplatz駅で下車です。

1階はなにやらテナント工事をしていました。
角地を生かした曲面の外壁で、ベランダのスラヴが薄く突きだしています。
窓の庇としての機能がありそうです。

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エントランスは裏側で、RC造の螺旋階段が美しいです。表通り側のベランダには物をあまり出していませんが、こちらの裏通り側は住人の私物らしき物がまあまあ有って、暮らしぶりが外に伝わって好感触です。

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シェッツエンマット通りの集合住宅で、設計は同じくヘルツォーク&ド・ムーロン。
2000年ごろ勤めていたインターデザインアソシエイツの研修旅行で、近くのフランス領内の空港からバーゼルへタクシーを飛ばして、知人達はこのあたりの建物をみてまわりました。が、私はみなの荷物の番人を買って出た人達と空港に残ったので、残念ながらその時は見ることが出来ませんでした。で、やっと10年後に見に来れました。

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日本では避難などの規制でなかなかこういうデザインはやれないように思います。

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この重厚さ、物の存在感で勝負しているデザインに当時あこがれたものです。

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近くのビルの壁面アート。
シャレが効いてますね。

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さて、歩いていると偶然リチャード・マイヤーの建物に出会いました。
全くノーマークでした。

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マイヤー作品を生で見るのは初めてです。

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王道ですね。

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やはりオープンジョイントの表皮が綺麗です。

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窓の足元の不思議なステッカー。
なんのためなのでそしょうかね???

路線
さあ、スイス建築旅行もあとすこし。
ベルンに宿泊してバーゼル通いで見て回りましたが、ベルンの宿をチェックアウトしてルツェルンへ向かいました。
ルツェルンではジャン・ヌーベル氏の作品とカラトラヴァ氏の駅を見るためですが、ここは宿泊無しでチューリッヒの最終宿に移動する途中で下車して見て回るスケジュールです。

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ルツェルン駅のホームです。ホーム内のコインロッカーに荷物を入れて、いざ、出動。

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改札を出て、ざっと見回り。

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階段をあがります。

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カラトラヴァ氏らしい生物的なスチールワークです。

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外からの様子。

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駅の先にはジャンヌーベル氏のルツェルン文化会議センターが見えます。

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この写真はルツェルン文化会議センターから見下ろしのルツェルン駅。

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さあ、ルツェルン文化会議センターへ向かいます。

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1階にカフェが入って居たので入ろうとしたらまだ早朝のため営業していません。
仕方なくまわりを見て回りつつ・・・

しかし、すごい庇の張り出しは圧倒。

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普通の観光客はこちらに行くと思います。カペル橋ですね。

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さて、時間も経って、内包されている美術館もオープンしたので館内へ。
ヌーベル氏設計のパリのカルティエ財団やアラブ研究所のエレベーターを思い出します。

キレキレのディテールです。

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庇直下の展望台。
手が届きそうに見える軒天上が圧倒的です。

室内は美術館含め撮影禁止でしたので、テラスやピロティ、階段など室外のみです。

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湖畔を歩いて交通博物館へ向かいます。

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外観が見えてきました。

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プロフィリットガラスのファサードの中に車のホイールが沢山ちりばめられています。

この美術館のエントランスホールの設計はギゴン&ゴヤー 両氏です。
エルクロッキーの表紙にお顔が出てますので、イメージが湧きます。
ギゴン&ゴヤーはヘルツォーク&ド・ムーロンの事務所で経験を積んで独立したユニットでダヴォスのキルヒナー美術館(1992年)などの作品があります。この交通博物館は2009年竣工との事ですので、出来たての所へ行った事になります。

IMG_4785すごい量の展示で圧倒されます。

IMG_4789スプートニクですね

IMG_4791旅客機のコクピット 

IMG_4797好きな車を呼び出せる実車の棚です。黄色いのはランボルギーニミウラでしょうか。

IMG_4801初代プリウスが展示されています!「尊敬」の文字はびっくり。

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L1020412電車コーナーも充実。とても楽しい博物館でした。

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さて、スイスの旅も終わり。チューリッヒ空港へもどり、空港内を見て回りました。
センターに丸い吹抜があり、天窓から自然光が入ります。
ショッピングのフロア、とその上にブリッジのあるフロア、チェックインのためのフロアが重層して重なり合っていて、美しく機能的です。

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たまたま、スイスエアーの楽団の演奏会が行われていました。

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と言うことでチェックイン後の写真で最後です。
日本と似た山間部の風景と日本人に響く建築のディテールが大変印象に残った旅でした。スイスはネットで調べた時刻表通りに旅が出来るし、日本国内で鉄道フリーパスを買ってから行けばなおさら便利です。前回はレンタカーで廻り、今回は鉄道の旅でしたが、どちらも大変楽しめました。見て回った建築を頭に焼き付け、次に作る家のアイデアの糧にしたいと思います。

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